東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)352号 判決
事実及び理由
1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで審決取消事由の存否について判断する。
(一)(1) 成立に争いのない甲第二号証、第三号証によれば、本願考案は、「籾を袋に収容したまま乾燥機により乾燥し、袋に収容したまま乾燥機より取出して、袋より籾を出し入れする労力を省くことを目的とする網地の袋」(甲第二号証第一欄第三六行ないし第二欄第二行)であつて、
<1> ラツセル織りの網地により袋本体を形成すること、
<2> 右網地は、連結したループからなる高分子物質製の経糸間を高分子物質製の単線の緯糸を通してつないで網目を形成することを特徴とするものであるが、この特徴を網地そのものの編成の仕方と網地を構成する素材とに分け ると、<イ> ラツセル織りの網地であつて、連結したループからなる経糸間を緯糸を通してつないで網目を形成した網地により袋本体を形成することに編成についての特徴があり、<ロ> 経糸及び緯糸を共に高分子物質製の糸とし、特に緯糸を単線糸とすることに編成糸についての特徴があるものと認められる。
(2) 成立に争いのない甲第四号証によれば、第一引用例には、「第30図はやはりよこ入を行つた縦袋に向く編地で、この方法で黄麻やその他の繊維を用いて作られた袋は工業的にも家庭向にも需要が多い。これは三組のガイド・バーを使用し、各ガイド・バーには同数の糸が通される。その中一組のガイド・バーの糸で鎖編(俗に柱という)を行い、他の二組のガイド・バーは互に反対方向に緯入を行つて、共に鎖編と絡むものである。」(第一八二頁第二八行ないし第三二行)と記載され、右記載と第30図とによれば、第一引用例における網地の編成は、本願考案における網地の編成についての特徴をすべて備えているものと認められる。
原告は、第一引用例記載のものは、ラツセル編による工業用家庭用の袋であつて、用途上籾収納用のものとして開示されていないから、これを籾収納袋として用いることに想い到ることは容易でない旨主張する。しかしながら、成立に争いのない乙第三、第四号証の各一ないし三によれば、穀類の収納袋として、穀類を収納したまま乾燥できる程通気性のある収納袋を用いることが本願考案の出願前普通に知られていたことが認められ、また成立に争いのない乙第一号証(第一周知例)、第二号証(第二周知例)によれば、一般に農産物の収納袋として通気性を必要とする場合織成の袋でなく編成の袋を用いることも本願考案の出願前普通に知られていたことが認められるから、第一及び第二周知例記載の袋は、特に穀類或は穀類中の籾収納用としてその用途を限定していないとしても、穀類の収納袋として通気性を有することが要求され、通気性をもつ編成袋が農産物の収納袋として用いることが知られている本願考案の出願当時の技術水準のもとでは、籾収納袋として、編成したものを用いるようにすることは、格別の考案を要する程のこととは認められない。したがつて、通気性を有する収納袋である第一引用例記載の編成袋を籾収納袋として用いることは、格別工夫考案を要することではない。
(3) 成立に争いのない甲第五号証の一ないし三によれば、第二ないし第四引用例記載の穀類袋は、織成のものであつて編成のものではないから、本願考案の編成についての特徴を開示しているものではないが、袋を構成する素材として、高分子物質(第二引用例においては、化学繊維、合成繊維、第三引用例においては、レーヨン又はアセテートのような化学繊維、第四引用例においては、合成樹脂製のフイルムテープヤーン等)を用いており、かつ第四引用例においては高分子物質製糸に単線糸を含んでいるものと認められるから、本願考案の編成糸についての特徴を備えているものということができる。
そして、一般に、編成収納袋を農産物の収納袋として用いることは、第一及び第二周知例が示すように本願考案の出願前普通に知られていたことであり、前掲乙第一号証、第二号証によれば、第一周知例のものはラツセル編であり、第二周知例のものはメリヤス編であるが、用いる糸はいずれも高分子物質製の単線糸であるから、農産物の収納袋としてラツセル編成の網地を用いること及びそのような網地を高分子物質製の単線糸で編成することも本願考案の出願前普通に知られていたものと認められる。
したがつて、このような一般的な技術水準のもとで、第一引用例の編成糸にかえて、これを高分子物質製とすること及びラツセル編の緯糸を単線糸とすることは、第二ないし第四引用例から当業者がきわめて容易に想到できたものというべきであるから、この点に関する審決の判断に誤りはない。
(ニ)(1) 本願考案の籾収納袋は、前述のとおり編成及び編成糸について特徴を有するものであるが、<イ>編成についての特徴から期待される作用効果については、第一引用例記載の編成収納袋を籾収納袋として用途を限定するようにすることが格別考案を要する程のことでないことは、前述のとおりであるから、第一引用例のものを単に用途限定するだけで十分予測できる範囲のものであり、<ロ>編成糸についての特徴から期待される作用効果については、前述した一般の農産物の収納袋に関する技術を前提としてみるとき、単に糸を選択しただけのものであつて、第二ないし第四引用例から、その選択が普通に知られている以上、当業者がきわめて容易に想到できるものであり、そのように選択した結果そのものの作用効果は十分に予測される範囲を出るものではないから、結局、原告が本願考案の効果として主張するところは、これらの引用例から予測される程度の効果にすぎないというべきである。
(2) 原告は、本願考案の籾収納袋は、生籾を袋に入れたままの長時間貯留に適し、かつ従来の織布製コンバイン袋では不可能であつた袋に生籾を収納したまま乾燥することを可能にしたもので、このことは公的機関の試験結果によつて実証されている旨主張する。しかしながら、原告がその証拠として援用する成立に争いのない甲第二一号証ないし第一五号証は、いずれも公的機関が本願考案と同種類の網状袋を使用した場合の生籾の貯留乾燥についての試験結果を示すものであるが、合成樹脂製袋とポリエチレン・ラツセル編網袋との変質率、胴割れ米発生率等の比較において後者が優れている旨の記載は、前述の第一ないし第四引用例から予測される範囲をでるものでなく、袋の貯留場所と変質率、胴割れ米発生率等との関係を示す記載については、本願考案は籾の袋詰乾燥方法に関する考案ではないから、これをもつて本願考案による作用効果とすることはできない。また、本願考案の籾収納袋は、コンバインと関連して特定されているものでないが、これをコンバインと関連して考察してみても、成立に争いのない乙第四号証の一ないし三によれば、コンバインで袋に収穫した穀類を袋に詰めたまま乾燥することは、本願考案の出願前普通に知られていたことが認められ、本願考案によつて初めて可能になつたものとはいえない。
したがつて、本願考案は、各引用例のもつ効果以上の格別の効果を生ずるものでないとした審決の判断には誤りがない。
(三) 以上のとおりであるから、本願考案は、第一ないし第七引用例記載のものに基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとした審決の判断は正当であつて、審決にはこれを取消すべき違法は存しない。
3 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
連結したループからなる高分子物質製の経糸2a間を高分子物質製の単線の緯糸2bを通してつないで網目を形成するラツセル織りの網地により袋本体1を形成し、しかして袋本体1の底辺両隅の表裏を斜めに縫綴6すると共にフアスナー5を装着する袋口に一対の吊環4を固着してなる籾収納袋。